1 生活困窮者自立支援制度創出の背景と生活困窮者自立支援

(1)背景

高度経済成長期には「右肩上がり」であった日本の経済状況は、1990年代以降バブル崩壊の影響が長期化し、完全失業率は上昇に転じ、特に長期失業者や若年層の失業者が増加しました。

 また、平成20年(2008年)に起こったリーマンショックの影響により雇用を取り巻く環境の厳しさが増し、全就業者に占める非正規雇用の労働者の割合は4割を超え、非正規雇用の労働者の内年収200万円以下の給与の者は2割以上を占める等、格差が広がり、現役世代を含めて生活困窮問題が顕著となりました。

高度経済成長期以降、「夫婦と子」からなる核家族が増えましたが、近年は、単身世帯や一人親世帯が増加しています。また、少子高齢化や過疎化が進み、地域コミュニティの維持が難しくなり、失業者や近年増加している非正規雇用労働者にとっては、仕事を通じた人間関係を築くことが難しくなりました。一方、他人や社会との「繋がり・縁」を「しがらみ」と感じて敬遠する人も多くなっているのも実情です。

このような社会構造の変化をはじめとした様々な要因を背景に様々な人とのつながりがない「社会的孤立」が大きな問題となっています。

 こういった「孤立」は、いざというときに頼れる人がおらず、失業や急な発病といった突発的な困難が生じた際に、家族・地域・職場の人によるセーフティーネットが機能せずに、そのまま貧困状態に陥ってしまうケースもあります。

このような社会的背景を受け、生活保護に至っていない生活困窮者に対する「第2のセーフティーネット」として、包括的に支援する生活困窮者自立支援制度が創出され平成27年(2015年)4月に生活困窮者自立支援法が施行されました。

 

(2)生活困窮者自立支援制度の目標と自立支援

 生活困窮者自立支援制度には、生活困窮者の自立に向けた意欲や思いに寄り添い、本人の自己選択と自己決定に基づき支援する「生活困窮者の自立と尊厳の確保」と、生活困窮者の早期把握のためのネットワークの構築と包括的な支援策を用意するとともに、地域に働く場や参加する場を広げていく「生活困窮者支援を通じた地域づくり」の2つの目標が掲げられています。

生活困窮者自立支援法では、生活困窮者を「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」と定義しています。生活困窮者の支援は、経済的自立に向けた就労支援が中心となりますが、「自立」には、経済的自立の他に日常生活自立や社会生活自立も含まれ、一人ひとりの状況に合わせて支援することとされています。

 

2 福祉21ビーナスプランへの生活困窮者自立支援の位置づけと検討の方向性

 生活困窮者自立支援制度は、地域福祉を拡充し、まちづくりを進めていく上で重要な施策であることから、「市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉計画の策定について」(平成26年(2014年)3月27日社援発032713号厚生労働省社会・援護局長通知)により地域福祉計画の中に位置づけて計画的に取り組むこととされています。

茅野市においては、第3次福祉21ビーナスプランに生活困窮者自立支援方策を盛り込むこととし、策定に向けた専門部会として「生活困窮支援ネットワーク部会」の立ち上げとなりました。

生活困窮者自立支援は、新しい福祉領域として支援方策の検討が必要とされています。茅野市では、福祉21ビーナスプランの基本理念の中で「地域の中で誰もがその人らしく暮らせるよう支援する」ことを目標として述べています。そのためには、「総合的な支援」が求められ、生涯にわたった支援体制、総合相談支援システム(地域包括ケアシステム)の推進を進めています。

これら福祉政策連携を図りつつ、茅野市の進めている「総合的な支援」の充実が、生活困窮者自立支援制度が求める地域完結型支援体制に繋がるものと考え、支援体制について検討することとしました。

 

3 課題と検証

(1)生活困窮者を取り巻く状況

・茅野市の生活保護率(3.7‰)は全国平均(1.7%)に比べ低いが、委員が本業において関わっているケースの中には、8050問題の世帯、発達障害の疑いのある者、貧困の連鎖等、経済的に不安定な状況にある者(世帯)もある。(※%(パーセント)が100分の1を示す割合に対し、‰(パーミル)は1,000分の1を示す割合)

・雇用状況(有効求人倍率)が改善し失業者数は減少しているが、在職者の転職等求職登録者が増えている傾向で全ての人が安定した職に就いている状況ではない。また、求人を出している企業は即戦力となる人材を求めており、生活困窮者自立支援制度で対象としているような方の採用は難しいことが想定できる。

・虐待や適切な養育ができない親の多くは社会性が身についていない傾向があり、その中で育つ子どもにも連鎖してしまうことが多い。

・一つの部署のみでは解決できない事例が増え、対象となる世帯は多分野に渡る問題を抱えている。

・将来的に経済的困窮に陥る恐れのある者として、ひきこもり状態にある者、その背景に多くある発達障害が取り上げられているが、そういった者の多くは自覚がなく、ケースとして把握はしても相談や支援にはつながり難い。

 

(2)相談支援体制等についての課題

・経済的な問題解決には、収入を得る必要があるが、就労以外では、生活保護しかなく、生活困窮者支援を充実させることは、生活保護のセールスになってしまう恐れもある。

・委員が本業として関わったケースの中で、把握していた生活状況からでは生活困窮状態にあったことが微塵も感じられなかった事例があり、支援者側でいかに気づけるかが課題。

・未入区の方が生活困窮状態に陥っていても地域で情報をキャッチすることが難しく、近隣での支援にもつながりにくい。

・世帯全体に支援が必要であっても、各制度は個としての適用であり、制度利用できない他の世帯員に支援の手が届かない。

・ニーズをキャッチしても制度やサービスにつなぐことしか支援の出口がない。

・担当分野の制度やサービス利用について関わるのみで、分野ごと別々の支援となっている。

・地域で生活困窮世帯ではないかと感じても、介入の方法、きっかけがわからない。これまで行政に情報提供するのみであり、何でも市に言えばいいということにも課題があるが、情報提供後のフィードバックが欲しい。

・生活困窮に関して地域の活動や支援機関(者)等の情報がない。

 

(3)生活困窮者の対象者像と支援方策の検証

1 生活困窮者の対象者像

生活困窮支援ネットワーク部会では、生活困窮者や生活困窮のリスクを抱えた方を生活困窮者自立支援制度が始まり新たに現れた対象者ではなく、もともと地域の中で埋もれていた方、制度の狭間に陥り、支援が届かない・届き難い方として、対象者像の共有を図りました。

・自ら相談やサービスにアクセスできない方

・既存の福祉制度やサービスのみでは問題の解決が難しい方

・世帯員それぞれに問題がある、または一人で複数の問題を抱えている方(背景には8050問題や、ひきこもり、発達障害等の問題が多く見られる)

2 支援方策の検証

生活困窮者に対する最終的支援は、直接的な金銭給付ができる生活保護制度でありますが、生活困窮者自立支援制度は、生活保護に至っていない生活困窮者に対して、相談支援を通じて包括的に支援することとされています。

包括的支援は、福祉21ビーナスプランの推進として取り組まれてきましたが、これまで支援が届かなかったり、届き難かった方々に支援が届き、生活困窮者が抱える課題が解決できるよう、相談機関のみならず、地域も交えた支援体制が必要であると考えます。

 

4 生活困窮支援ネットワーク部会からの提案

 生活困窮支援ネットワーク部会では、生活困窮者自立支援制度の目標に沿った提案とすべく、支援方策の検証から一つの表題を掲げ、その実現のための取組事項をキーワードとして提案することとしました。

 

地域の包括的な支援力の強化 ~孤立ゼロの地域を目指して~

 

(1)「気づく」

・早期把握

・アウトリーチ(地域に出かけて掘り起こしたり、相談にのること)

・相談機関による気づき

・福祉教育

・情報提供

・相談支援機関等のネットワーク

 

職を失うなどして生活困窮に陥った方や、引きこもりなどで地域から見え難くなった方等、生活困窮のリスクを抱えた方は、社会とのつながりが弱まった状態にあり、自ら相談機関にアクセスすることが困難な状態にあります。支援はできるだけ早期に開始することが重要とされています。

総合相談窓口である保健福祉サービスセンターや福祉事務所、生活困窮者自立相談機関である生活就労支援センターまいさぽ茅野市といった相談機関のみでは、早期把握、早期支援は困難な状態にあり、まずは地域による「気づき」が重要となります。地域には教育機関や介護・障害者支援等、既に他分野で支援している相談機関や民生児童委員等、地域で活動している方等、早期に「気づける」資源があります。その「気づき」のためには、前述の相談機関等がその専門分野の枠を超えていかに察知できるかが重要であり、生活困窮の視点を含めた福祉教育の機会が必要です。また、その「気づき」をつなぐため顔の見える関係が築ける相談支援機関等のネットワークの構築が必要です。

一方庁内では、税、水道、市営住宅の家賃滞納から金銭的困窮を「気づける」機会があり、保健福祉サービスセンターや、福祉事務所、生活就労支援センターまいさぽ茅野市といった相談機関との「つなぎ」情報共有が円滑に行えるよう、制度の周知や庁内連携、情報提供の仕組みが必要です。


(2)「ほっとかない」

・縦割りを超えた支援

・継続した支援

・制度や福祉サービス利用、就労支援以外の支援

 

生活困窮者(世帯)の多くは、多様な問題を抱え、これまでの制度や福祉サービスに当てはめるといった分野ごと別々の支援では対処が困難な状況もあります。また、制度の狭間に陥り、制度やサービスの利用ができないことから、支援や関わりが途切れてしまうという課題があります。

生活困窮者自立支援制度の目標として掲げられている尊厳ある自立に向けた支援には、多様な問題を包括的に対処することが必要とされています。また、生活困窮者の支援は、経済的自立に向けた就労支援が中心となりますが、やみくもに就労に追い立てることがないよう、社会的自立から経済的自立へ段階に応じて支援する仕組みとして、制度や福祉サービス利用や就労支援に至らない段階であっても継続した関わりが必要とされています。

課題を抱えた方を「ほっとかない」ために縦割りを超えた支援体制、継続した支援体制について、総合相談支援機能から包括的支援機能への転換が必要です。

 

(3)「よりあい」

・地域の意識付け

・我が事への意識、参加への意識(身近な単位でのイベント)

・相談支援機関等のネットワーク

・支援機関・団体の情報

・地域での支援(居場所、活躍の場、見守り)

 

生活困窮者(世帯)が孤立化し、自身の価値を見出せない限り、自身が主体的となって課題解決に向かうことは難しく、一人ひとりが社会とのつながりを強め、周囲から承認されていることを実感できることが、課題解決、自立に向けて踏み出すための条件と言われています。

社会的孤立等、地域において見え難い課題について学ぶ機会を通じ、地域や福祉を身近なものとする地域の意識付けが必要です。

支援は、本人のニーズに合わせて、制度や福祉サービス利用のみでなく、見守り・居場所・参加の場等を身近な地域で支援していくこととされています。地域の相談支援機関や住民をはじめとする方々を支援チームとして巻き込み、分野を超え「寄り合った」支援をコーディネートする機能が必要です。

また、地域で活動している支援者やNPO等の支援団体を支援チームに巻き込みことも有効であり、情報としてまとめ、フードドライブ事業等のイベントを通じて、地域住民が参加するきっかけが必要です。

 

分野を超えた支援や地域住民が支援に参加する経験を積み重ねることで、支援者のネットワークの構築や他人事を我が事への意識が醸成でき、地域の包括的な支援力が強化され、孤立のない地域へとつながるものと考えます。